”ヴィンテージ”という枠組みが90年代~ゼロ年代まで拡大しつつある現在、Tシャツの分野においてもこれまで「レギュラー古着」として認知されていたものにスポットライトが当たり、「ニューヴィンテージ」として評価する軸も縦横に広がりつつあります。今回は、衣服の中でも原点的な存在…それゆえに価値感の変遷も非常に大きく、オルタナティブかつ柔軟な流行が見られる「ヴィンテージTシャツ」の変遷について考察したいと思います。

バンドTシャツのムーブメントから始まった、Tシャツに「カルチャー的」価値を見出す動き

この数年間で古着が流行の一端を担うきっかけともなったのが、ロックバンドやヒップホップアーティストを中心とする音楽モノ―「バンT」「ラップT」であることは間違いありません。もともと70~80’sのコアな古着愛好者にとっては魅力的なジャンルだったバンドTシャツですが、海外のアーティストやラッパーといったセレブレティが、各々の音楽嗜好へのリスペクトも込めて再発掘していったことを端緒に、過去に類を見ない流行の渦が起きました。着用者のネームバリューが評価軸に繋がる部分はスニーカーのプレミアムな価格動向と類似する動きになりつつありますが、芸術性も高い多様な音楽カルチャーがTシャツ内に表現されている、趣向性の高さに魅了される人が増えていったことは見逃せません。NIRVANA/ニルバーナやSonic Youth/ソニックユース、The Smashing Pumpkins/スマッシングパンプキンズといった従来から人気の高いオルタナロック勢だけでなく、ハードロック・ミスチャ―ロック・HIP HOPなどジャンル人気も多岐に渡るようになり、その勢いは今もなお拡大していっています。

「ヴィンテージディズニー」の高騰
— 単なるユースアイコンではなくなりつつあるキャラクターTシャツ

バンドTシャツのように、古着分野ではすでにコアジャンルとして確立されていたものがトレンドの主流として浮上する例で近年特筆するものとして、ヴィンテージのディズニーを中心とするキャラクターTシャツで見られるようになってきているのは興味深い変動です。

従来から、スヌーピー/PEANUTSやPOPEYE/ポパイといったようなアメリカンカジュアルの象徴的キャラクターはヴィンテージ古着のモチーフとして定着していました。中でもディズニーキャラクターはポップな印象も大きいため、90年代頃の年代品は若者向けアイコンとしての範囲を逸脱しない価格帯が定番でしたが、ここ数年で「レギュラー古着」というジャンルを越えるような勢いを持っています。このような変化はヴィンテージ古着を買取の対象として評価する上でも注目している部分です。

ラグジュアリー&ストリートブランドとの接近を背景とするヴィンテージマーケットの変化

こういった変化の背景としては、ストリートブランド・ラグジュアリーブランドの最近のブランディングに見る、キャラクターとのコラボレーションも大きな要素と見られます。直近数年を見ても、グッチやコーチによるディズニーキャラクターの起用を筆頭に、「GUCCI×ドラえもん」・「LOEWE×スタジオジブリ」・「BAPE×ポケモン」など、日本のアニメーションに対しても独自性の高い接近は特徴的です。世界的に見ても「ジャパニメーション」とも呼称される日本のアニメ・キャラクターの人気と知名度は非常に高いことは知られていますが、ファッションとのリンクで注目度に拍車がかかることにより、これまで埋もれていた90年~ゼロ年代当時のキャラクターやアニメーションTシャツが、マニアックなファンにより掘り起こされて価格が高騰している可能性が高そうです。

Disney(ディズニー)×COACH(コーチ)ミッキーTシャツ

秀逸なデザインが豊富な「企業ロゴ」Tシャツは今後ポテンシャルの高いジャンル

これまで見られなかったジャンルが高騰しているもう一つの例として、海外・国内問わず有名企業のロゴを使った「企業ロゴ」モノの人気が高まっています。こちらも本来から根強い人気があるジャンルで、イアンマッケイやヘンリーロリンズといったハードコアバンドのアーティストが愛した「ハーゲンダッツ」などカルチャーシーンとの結びつきも強いため、その影響から近年では有名アーティストもファッションへ取り入れだしたことで注目度が高まりました。Supremeも元ネタとして使用した「Newport」(アメリカのタバコ銘柄)などパロディ的な要素からストリートブランドでサンプリングソースとして使われることも増えており、人気となるのもApple / MackintoshやMicrosoft / WindowsなどIT有名企業から、Marlboro(マルボロ)、maxell(マクセル)など業種も多様。NECやSONYなどの日本企業も密かな注目株となっており、商業デザイン視点でのロゴの秀逸さを見ると、まだ隠れたヒットを掘る面白さもありそうなジャンルです。

80年代STP企業ロゴ リンガーTシャツ・ラグランカットソー

Tシャツという男性女性問わず形状も普遍的な服の上では、ブランドやプリントでの主張・表現が遥か昔から繰り広げられてきました。「何を着るか」というのが一番シンプルに現れるからこそ、人の好みや趣向、直感的なものも見えてくるのがTシャツの面白さです。スケートボードカルチャーや、最近ではアート・フォトアートなど、Tシャツ1枚も一つの作品として捉えるような流れもあります。たまたま持っていた一枚に思ってもみなかった価値があったり、出向いたお店で最高の出会いが生まれる事もあると思いますので、まだまだ底なしのTシャツの世界に触れてみてはいかがでしようか?